判例紹介 No.06
1. 事案の概要
原告(特許権者)は特許権侵害訴訟を提起したが、第1審判決及び控訴審判決はいずれも特許に無効理由があることを理由に請求棄却した。
原告は上告するとともに無効理由を取り除くために訂正審判を請求したところ訂正容認審決が出され確定した。原告は、この事実は再審事由(民訴法338条1項8号:原判決の基礎となった行政処分が後の行政処分により変更された場合)に該当するから原審判決は取り消されるべきであると主張したが、最高裁は特許法104条の3第2項を適用し上告を棄却した。
2. 訴訟及び審判の手続の経緯
(原告)発明1について侵害訴訟提起→(被告)特許無効審判請求→発明1特許無効審決→(原告)発明5の侵害を主張→(被告)発明5の特許無効の抗弁→第1審請求棄却判決(大阪地裁平成16年10月21日判決:発明1及び発明5に明らかな無効理由あり権利の濫用)→(原告)控訴→(被告)発明1及び発明5の特許無効の抗弁→(原告)発明5について訂正審判請求(第1回)→(原告)訂正審判(第1回)取り下げ・発明5について訂正審判請求(第2回)→(原告)発明1について侵害主張取り下げ→訂正不成立審決→口頭弁論終結→(原告)訂正審判(第2回)取り下げ・発明5について訂正審判請求(第3回)→第2審請求棄却判決(知財高裁平成18年5月31日判決:発明5に無効理由あり特許法104条の3)→(原告)上告受理の申立→(原告)訂正審判(第3回)取り下げ・発明5について訂正審判請求(第4回)→(原告)訂正審判(第4回)取り下げ・発明5について本件訂正審判請求(第5回)→訂正容認審決→上告棄却
3. 判決理由の要点
特許法104条の3第2項の規定が,同条1項の規定による攻撃防御方法が審理を不当に遅延させることを目的とするものと認められるときは,これを却下することができるとしているのは,無効主張について審理,判断することによって訴訟遅延が生ずることを防ぐためである。
この規定の趣旨に照らすと,無効主張のみならず,無効主張を否定し,又は覆す主張(以下「対抗主張」という。)も却下の対象となり,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を理由とする無効主張に対する対抗主張も,審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められれば,却下されることになる。
上告人は,第1審においても,被上告人の無効主張に対して対抗主張を提出することができたのであり,特許法104条の3の規定の趣旨に照らすと,第1審判決によって無効主張が採用された後の原審の審理においては,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を理由とするものを含めて早期に対抗主張を提出すべきであった。
そして,本件訂正審決の内容や上告人が1年以上に及ぶ原審の審理期間中に2度にわたって訂正審判請求とその取下げを繰り返したことにかんがみると,上告人が本件訂正審判請求に係る対抗主張を原審の口頭弁論終結前に提出しなかったことを正当化する理由は何ら見いだすことができない。したがって,上告人が本件訂正審決が確定したことを理由に原審の判断を争うことは,原審の審理中にそれも早期に提出すべきであった対抗主張を原判決言渡し後に提出するに等しく,上告人と被上告人らとの間の本件特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものといわざるを得ず,特許法104条の3の規定の趣旨に照らしてこれを許すことはできない。
4. 検討
本判決は、最高裁が、訴訟の遅延を防止するための特許法104条の3第2項の規定は、特許無効の主張のみならず、特許無効に対抗する主張についても適用されることを明らかにしたものとして注目される。