知的財産権の判例紹介

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判例紹介 No.12

職務発明について特許を受ける権利は会社が承継する旨を会社規則で定めていれば譲渡行為(発明の届け出や譲渡証書の提出)がなくても発明が完成した時点で権利は会社に承継されているとした判決、会社がある事業分野から撤退したからといってその分野の職務発明について特許を受ける権利を放棄したことにならないとした判決

東京地裁平成21年1月29日判決 平成19年(ワ)12655号

特許事務スタッフ

1. 事案の概要
 原告会社が被告会社に対し,被告が特許出願した発明について,原告の元従業者のした職務発明として特許を受ける権利の承継を受けたと主張して,上記権利を有することの確認を求めた。

2.事実関係
 (1)経緯
 原告会社で加工具「バリ取りホルダー」の開発を開始→従業員β1が発明を完成→会社がバリ取りホルダーの発売を中止する業務命令→β1が退職→原告会社のバリ取りホルダーの開発拠点の閉鎖・設計図面廃棄→被告会社がβ1を発明者とするバリ取りホルダーの発明を出願→原告会社が本件訴訟提起。
 β1は発明の届け出や譲渡証書の提出を原告会社にしていない。原告会社はバリ取りホルダーの特許出願をしていない。β1は被告会社に転職し発明の譲渡証書を提出している。

 (2)原告会社の職務発明規定
 「(発明考案に伴う工業所有権の取扱)
 第62条社員が会社の業務範囲に属する事項について発明、考案した場合は、遅延なく所定の手続きにより所属長に届け出し、その発明、考案が現在又は過去の職務に関するものであると会社が認めた場合は、工業所有権を受ける権利を会社に譲渡しなければならない。これに対する補償、その他の取扱については別に定めるところによる。」
 また,原告の社員職務発明考案等取扱細則(以下「細則」という。)には,次の規定がある。

 「(名称及び目的)
 第1条 この規則は就業規則第62条に基づき、会社業務に関する社員の発明・考案・意匠の創作に基づく特許権・実用新案権・意匠権(以下工業所有権と言う)に関する対価の支払その他の取扱いを規定し、発明・考案・意匠の創作活動を計る事を目的とする。」

 「(職務発明等の届出義務及び様式)
 第4条第1項会社業務に関する発明・考案・意匠の創作をなした時は、社員はその内容について遅滞なく所属長を経て、会社に届出なければならない。」

 「(権利の承継)
 第5条第1項業務に関する発明・考案・意匠の創作をなした時は、その発明・考案・意匠の創作に至った行為が会社における現在または過去の職務に属する時はその発明・考案・意匠の創作につき国内及び外国における工業所有権を出願する権利(以下出願権と言う)および工業所有権を受ける権利は、会社がこれを承継する。
 第2項前項は特許法35条、実用新案法第11条第3項および意匠法第15条第3項に準拠する。」

 「(発明・考案・意匠審査会の審議)
 第8条発明・考案・意匠審査会は、会長または副会長の諮問に応じ、次号に揚げる事項を審査する。
(1)第4条の届出による工業所有権を取得する権利の譲り受けの決定に関する事項。」

3.争点
 (1)本件特許を受ける権利は原告に承継されたか。(2)原告がバリ取りホルダーの開発・発売を中止したことは本件特許を受ける権利の放棄と見なせるか。(3)特許を受ける権利の対抗要件。

4.判決の要点
 (1)結論:原告の請求を棄却する。

 イ)細則5条の1項により、本件特許を受ける権利は、発明の完成と同時に格別の譲渡行為を要せずに原告に承継されている。

 ロ)製品の発売や開発を中止する業務命令は、経営判断を示すものであるが、製品に関わる特許を受ける権利を放棄したことまでも示すものでない。

 ハ)原告は、本件発明の特許出願をしておらず、特許法34条1項により、β1から本件発明の特許を受ける権利を承継し特許出願した被告に対抗できない。

 (2)理由
 イ)規則62条の文言によれば,職務発明等であるときにおいても,従業者等の届出,原告による職務関連性の認定,従業者等と原告との間の譲渡が必要であるようにも読める。他方,細則5条の1項によると,「業務に関する発明・考案・意匠の創作をなした時は」,「その発明・考案・意匠の創作に至った行為が会社における現在または過去の職務に属する時は」,「工業所有権を出願する権利」及び「工業所有権を受ける権利は、会社がこれを承継する。」と規定しており,同規定は,明らかに,届出,認定,譲渡を要せず,発明等の完成時におけるその客観的な性状に従って当然に承継がされることを趣旨としたものである。したがって,職務発明等のときには,規則62条は,細則5条1項の規定内容の趣旨から理解すべきである。これに対し,発明等が現在または過去の職務に属しない時においては,規則62条のほか,細則4条で定める発明等の届出等を定めや細則8条で定める権利の譲受けの審査等などが意義を有する。
 そうすると,職務発明にあっては,細則5条1項により,本件発明の完成と同時に,何らの格別の譲渡行為を要せずして,原告に承継されたものと認める。

 ロ)原告のもとで完成した本件発明は,製品化される前に,発売や開発が中止されたが、本件特許を受ける権利について,原告が放棄したものと推認するに足りる事実関係は認めることができない。製品の発売や開発を中止する業務命令は,経営判断を示すものであるということはできても,製品に関わる特許を受ける権利の主体として,当該権利を放棄したことまでも示すものであるということはできない。

5.検討
 本件は、職務発明の特許を受ける権利の二重譲渡の問題である。それは、事業のリストラに伴い従業員が他の会社に移って、そこで元の会社で完成した職務発明を譲渡したことにより生じた。
 判決は、職務発明を創作したときは会社が特許を受ける権利を承継する旨を社内規則で明記していれば、発明の届け出や譲渡証書の提出などの譲渡行為がなくても、発明の完成時に会社に権利が承継されていると判断しており、社内規則を策定する際に参考になる。また、会社がある事業分野から撤退してもその分野において承継した職務発明に関する権利を放棄したことにならない点も事業をリストラする際の参考になる。

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