判例紹介 No.01
知財高裁平成19年2月14日 平成18年(行ケ)10083号
(1)本願発明
(特許請求の範囲)
【請求項1】 ポリマー再結晶溶融相により結合された配向ポリマー繊維の圧縮集合体からなる、シート、ロッド又はバー形状の見た目には均質な外観を有するポリマー物質であって、その配向ポリマー繊維及びその溶融相が配向ポリマー繊維先駆体の集合体から得られ、その溶融相がその物質のポリマー含量の5−50重量%からなり、且つ配向ポリマー繊維の融点より低い融点を有し、そのポリマー繊維がポリオレフィン,ビニルポリマー,ポリエステル,ポリアミド,ポリエーテルケトン又はポリアセタールである、前記物質。
(要約)
配向ポリマー繊維から製造される均質なポリマー物質に関する。配向ポリマーの繊維の集成体を熱間圧縮して、特に繊維が配向する方向を横切る方向において、優れた機械的性質を有するシートを形成する。繊維を接触状態に維持するために充分な圧力の接触圧にさらしながら、圧縮温度に加熱し、この温度に維持し、その後より高い圧力の圧縮圧において圧縮する初期処理工程によって、繊維中のポリマー物質の一部が溶融し、次に再結晶して繊維を共に結合させる。
(発明の詳細な説明)
【0006】圧縮生成物中の第2相の存在は例えばd.s.c.測定によって容易に検出される。
【0007】好ましい実施態様では、繊維を圧縮する温度はピーク溶融温度以下、すなわちポリマー繊維の示差走査カロリメトリー(calorimetry)(DSC)によって測定する吸熱量がその最高点に達する温度以下である。
【0029】圧縮物質のDSCトレースはオリジナル繊維相の8%が溶融され、再結晶して、第2低融点相を形成することを示した。
【0031】圧縮物質のDSCトレースはオリジナル繊維の溶融によって形成される約35%の「第二相」を示した。
(2)審決の要点
(結論)明細書の記載が特許法36条4項(平成6年改正前)を満たしていない。
(理由)本願明細書の段落【0029】,【0031】は,単に溶融相の含有率をDSCで求める旨記載しているにとどまり,これらの段落以外の記載をみても溶融相の含有率の具体的な求め方は記載されていないから,溶融相の含有率の測定方法については,発明の詳細な説明をみても不明であり,したがって,発明の詳細な説明には,本願発明1を当業者が実施をすることができる程度に,発明の目的,構成及び効果が記載されているとはいえない。
(3)原告(出願人)の主張
本願明細書の段落【0006】及び【0007】にはDSC装置及びDSC測定法について記載されており,溶融相の含有率の測定は,DSC測定法による測定算出方法によって当業者が容易に実施できる。
(4)判決の要点
(結論)原告の請求を棄却する。
(理由)本願明細書には,DSC装置を用いることは記載されていても,DSC装置を用いてどのような数値を測定し,どのように計算すれば含有量を得られるのかが明らかにされておらず,また,原告の主張する測定方法が本願の優先権主張日当時,技術常識であったと認めるに足る証拠も見当たらない。
溶融相の測定方法については,段落【0006】に,測定手段としてDSC装置を用いることが記載され,段落【0029】及び【0031】に溶融相の含有割合に関する数値が記載されているが,それ以上に具体的な測定方法は記載されていない。
また,原告がDSC装置及びDSC測定法について解説するものとして例示した甲13〜17について検討しても,同じ物質であるが質量の異なる二つの試料がある場合,DSC装置を用いてそれぞれの試料について融点における吸熱量を計測してその比率を計算することによって,二つの試料の質量の比率を求めることができることは記載されておらず,ある物質を構成する成分(相)の重量割合をDSC装置によって求めることができることが,本願の優先権主張日当時,当業者に自明であったと認めるに足る証拠は見当たらない。
(5)検討
数値限定発明について、数値の測定方法が記載されていない場合は特許法36条4項違反であると判断した判決が最近相次いでいる(複合フィルム事件判決 東京高裁平成17年3月30日 平成15年(行ケ)272号、不織布事件判決 知財高裁平成18年12月21日 平成18年(行ケ)10099号)。
本判決は、その流れに沿った判決である。数値限定発明の数値の測定方法は、技術常識である場合を除いて、必ず明細書に記載すべきである。