知的財産権の判例紹介

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判例紹介 No.13

特許無効審判において、請求項の訂正が認められたので請求不成立とした審決が、当初無効理由の判断を遺脱しているので取り消された判決、審判請求書の要旨変更が認められない場合を示した判決

知財高裁平成20年11月27日判決 平成19年(行ケ)10380号

特許事務スタッフ

1. 判示事項
 (1)特許無効審判において,訂正前の特定の請求項との関係で主張された無効理由は,当該請求項に対応する訂正後の請求項との関係においても主張されているものとして手続が進められるべきであるから,訂正が認められたので当該無効理由は理由がなくなったとして,同無効理由につき判断することなく請求を不成立とした審決は,判断遺脱の違法がある。

 (2)審判請求書において主張されていない公知事実(甲6)により構成される進歩性欠如の無効理由の主張は同請求書の要旨を変更するものであり,特許法131条の2第2項の規定による補正の許可及び被告(被請求人)に対する同法134条2項の答弁書の提出の機会の付与も,同法153条2項の規定による通知及び当事者に対する意見申立ての機会の付与もされていない場合には,審判手続において適法に主張されたものということはできない。

2. 審判及び訴訟の手続の経緯
 (原告)登録時発明1〜8について特許無効審判請求(当初無効理由1:補正は新規事項、当初無効理由2:平成6年改正前36条5項1号(サポート要件)違反、当初無効理由3:平成6年改正前36条5項2号違反(請求項に発明の構成に不可欠の事項が記載されていない)、当初無効理由4:甲1及び甲2により進歩性なし)→(被告)訂正請求(1次訂正)→1次審決(1次訂正を認める、請求項1〜7は無効、請求項8は不成立)→(原告・被告)審決取消訴訟提起→判決(181条2項により審決を取り消す)→(被告)訂正請求(2次訂正)→(原告)第1回弁駁書(甲3〜31提出し請求の理由を補充)→(審判長)審判請求書の要旨変更、請求理由の補正は許可しない、2次訂正を認める、被告に甲4,甲2、周知技術により進歩性欠如の無効理由通知、原告に職権審理通知→(被告)訂正請求(3次訂正、登録時請求項4〜6を削除)→2次審決(3次訂正を認める、訂正後の請求項1〜5は進歩性欠如で無効)→(被告)審決取消訴訟提起→判決(181条2項により審決を取り消す)→(被告)訂正請求(4次訂正、登録時請求項4〜6、8の削除を含む)→(原告)第2回弁駁書(4次訂正は認められない、無効理由1:登録時請求項1〜8は甲4,甲2、周知技術の組み合わせにより、又は甲4、甲6、周知技術の組み合わせにより進歩性なし、無効理由2:請求項1〜7の補正は新規事項、無効理由3:登録時請求項8は甲1、甲2により進歩性なし、無効理由4:4次訂正後の各請求項は甲4,甲2、周知技術の組み合わせにより、又は甲4、甲6、周知技術の組み合わせにより進歩性なし→(審判長)特許法施行規則47条の2第1項に基づく答弁指令(特許法134条1,2項の指定期間でないと記載)→(被告)答弁書→3次審決(本件審決、4次訂正を認める、訂正により無効理由2は解消、進歩性あり、審判請求は不成立)→(原告)審決取消訴訟提起→本判決(本件審決を取り消す)

3. 判決理由の要点
 (1)請求人が,請求書で主張した複数の無効理由についてその一部の主張を撤回するには,審判の請求の取下げの場合(特許法155条)に準じて,被請求人の承諾を得る必要がある。特許無効審判の手続において,請求人が無効理由を主張した後に,被請求人が訂正請求をするような場合に,訂正前の特定の請求項との関係で主張された無効理由は,当該請求項に対応する訂正後の請求項との関係においても,無効理由の主張がされているものとして,手続が進められるべきであることは当然である(平成11年法律第41号による特許法の改正において,訂正請求の可否の判断に際して,訂正後の請求項に係る独立特許要件の審理をしないこととされた趣旨が,同改正前における訂正後の請求項に係る独立特許要件の審理と無効理由の審理が重複するという理由であるという立法経緯からも,疑問の余地はない。)。
 本件第4訂正後の請求項1ないし3はそれぞれ登録時の請求項1ないし3に対応し,本件第4訂正後の請求項4は登録時の請求項7に対応するものであるから,原告は,本件無効審判の手続において,本件発明1ないし4についての各特許に対し,それぞれ当初無効理由1(これらのうち,「ドライブビット等の打撃駆動装置」との構成に係る理由は,無効理由2と重複する。)を主張したものと解する。
 本件第4訂正により,登録時の請求項1,2及び7の「ドライブビット等の打撃駆動装置」との記載は,いずれも「ドライブビット」に訂正されたから,「訂正は認められたので」無効理由2は,「理由が無くなった。」とする本件審決の判断に誤りはない。
 しかし,本件第4訂正後の請求項1ないし4の記載に照らし,当初無効理由1のうち,無効理由2と重複する理由以外の理由は,当然には,理由がなくなったということはできないところ,本件審決が,これらの理由の成否について何ら判断していないことは明らかである。したがって,本件審決は,当初無効理由1(無効理由2と重複する理由を除く。)について,判断を遺脱した違法がある。
 本件審決が,当初の無効理由2(サポート要件違反)、3(請求項に発明の構成に不可欠の事項が記載されていない)、4(甲1及び甲2により進歩性なし)の成否について何ら判断していないことは明らかである。したがって,本件審決は,当初無効理由2、3、4について,判断を遺脱した違法がある。

 (2)無効理由4のうち,@甲4記載の発明,物2(甲2)記載の事項及び周知慣用手段の組合せに係る理由は,本件無効審判の手続において,適法に審理の対象とされたものということができるが,A刊行物1(甲4)記載の発明,刊行物3(甲6)記載の事項及び周知慣用手段の組合せに係る理由は,本件無効審判請求書の要旨を変更するものであって,かつ,特許法131条の2第2項の規定による補正の許可及び被請求人に対する同法134条2項の答弁書の提出の機会の付与も,同法153条2項の規定による通知及び当事者に対する意見申立ての機会の付与もされていない。
 したがって,無効理由4のうち,甲4記載の発明,記載甲6の事項及び周知慣用手段の組合せに係る理由は,甲6に基づく公知事実によって構成されているという点に関し,本件無効審判の手続において,適法に主張されたものということはできない。審決においてこの無効理由が成立しない旨の判断をした部分は不要な判断である。

4. 検討
 本判決は、特許無効審判手続きにおいて、審判請求書に当初記載した無効理由は請求人が取り下げない限り生きているから、訂正が何回されようと、登録時請求項に対応する請求項が訂正後も存在するなら、その請求項については当初の無効理由を判断するべきであることを教えている。新規事項の補正に基づく無効理由について説明すると、当初無効理由1は、「ドライブビット等の打撃駆動装置」に関するもの(無効理由2と重複)とそれ以外のものを含んでおり、前者は4次訂正により消滅したが後者は4次訂正後も残っているのである。
 また本判決は、審判請求書の要旨変更が認められない場合を明示した点でも注目される。4次訂正に対して原告が提出した第2回弁駁書は審判請求書に記載されていない新たな無効理由(甲6に基づく進歩性欠如)を追加するものであった。審判長は、この弁駁書の副本を被告に通知するとともに、特許法施行規則47条の2第1項に基づき期間を指定して答弁指令を行った(通知には特許法134条1項、2項に規定する指定期間でないと記載)。本判決は、この手続きでは特許法の規定(131条の2第2項、134条2項または153条2項)により審判請求書の要旨変更が認められる場合に該当しないと判断した。

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